春が来たら、桜の花びら降らせてね
「な……なつ……」
ふいに、喉の絞めつけが軽くなった気がした。
「え……?」
夏樹君は、信じられないと言わんばかりの顔で、私を見つめる。
今、少しでも君を喜ばせたい。
呼びたい……呼びたい、君の名前を。
奇跡でも、一生に一度のお願いでも何でもいい。
「夏っ……きく……ん……」
今、そのすべてを使って……届け!
その瞬間、空気砲のように放たれる。
「夏樹君……っ!」
声帯を震わせた空気が声になって、ちゃんと君の耳に届いたのが、夏樹君の驚く顔でわかった。
「冬菜……俺を、今、呼んだのか?本当に、夢じゃないよな?」
──夢になんて、しないで。
だけど正直私も、夏樹君の名前を呼べたのが夢みたいに思う。
「ふし……ぎ、夏樹……君とは……話したいって、思った」
だから、きっと話せたのかもしれない。
私が閉ざしていた気持ちを、君への想いが開いたから。