雨がいなくなったら
雨がいなくなったら
頭痛がする。テレビでは、もう梅雨入りを発表している。今年もきた。この時期は嫌いだ。頭をひどく揺すられているような感覚で先ほどのことを思い出す。
彼と喧嘩をした。原因は私だ。彼のくれた誕生日プレゼントを気に入らないと言ってしまったからだ。彼はごめんねと笑って謝り、この部屋を出て行ってしまった。私には最初、彼がなぜ出て行ったのか分からなかったが、3時間ほど時が経ったのに帰ってこない彼に、今になって怒っているのかもしれないと思いだした。我ながら情けない。すると途端に頭が痛む。こんな時にどうして。
昔からそうだ。美味しいものは美味しい、不味いものは不味い。楽しいことは楽しい、退屈なことは退屈。そんな風に馬鹿正直に生きてきた私は、生まれてこのかたいろんな人を傷つけてきた。
大好きで大事にしてきた彼をも傷つけてしまった。プレゼントのネックレスも気に入らないから気に入らない、と突き放してしまった。ゴールドは昔から嫌いだ。シルバーがいい。そんなことが口をついて出てしまった。プレゼントしてくれたことは嬉しかったのに、そんなことを言ってしまった。どうしよう、と落ち込んだのもつかの間、彼は笑っ
てごめんねといってこの部屋を出て行ってしまった。
何故笑うんだろう。笑った顔が寂しそうに歪んでいるような気もした。
出ていったっきり帰ってこない彼がたまらなく恋しくなった。
私はまたやってしまった。また人を傷つけてしまった。大好きな彼を傷つけてしまった。なんでいつも、人の思いを考えられないんだろう。なんでいつも、人間のように振る舞えないのだろう。涙が出てきて止まらない。
このまま彼が帰ってこなかったらどうしよう。頭が痛い。彼になんて言おう。頭が痛い。彼のことを考えると頭が痛い。謝らなくてはいけない。彼のことが大好きなのも、きちんと伝えなければいけない。
雨が降っている。土砂降りになった雨の中、彼は何をしているのだろう。帰ってきてくれるのだろうか。
< 1 / 2 >