私の二人の神様へ
第1章
私と彼
バシッと思いっきりテキストで叩くと、彼は眉間の皺を一層深めた。
「てめぇ、何しやがる」
「榊田君。毎回毎回どうして懲りないの!?女性に対して言って良いことと悪いことがあるでしょ?」
低く唸る彼に私は恒例の説教を始める。
「別に俺は何も言ってない」
反省の様子もないふてぶてしい態度。
何も言ってない?
「榊田君。あなたが今さっき古谷さんに言った言葉を復唱してみて」
「『ファンデーションが服に付くから擦りつくのはやめろ』って言った」
榊田君は律儀に私の質問に答えたが、若干端折り過ぎだ。
「あなたはその前に『首と顔の色がまったく違う厚塗りお化け』って言ったのは覚えてる?」
「覚えてる。あれだけ濃く塗りたくった顔で擦りつかれてみろ。普通、服が汚れる心配するだろう?」
自分の発言のマズさをまるで理解していない。
「榊田君、今あなたが着ている服は確か、スーパーのワゴンセールで五百円だったと記憶しているんだけど?」
「その通りだ」
彼は頷く。
「五百円の服のために女の子を傷つけるなんて言語道断!しかもそれ部屋着で買ったものよね?バイト先に着て来るなんて、だらしないわ!」
私の言葉に、彼は鼻を鳴らし笑った。
「三百円の服を着て来るお前に言われたくないな」
「失礼ね!これは千円よ!」
サマーワンピースのスカート部分をつまみ上げ、榊田君を睨みつけた。
「千円で買って、翌週行ったら三百円になってたんだよな?」
人が忘れたい過去を公に晒すなんて!
怒りに打ち震えていると、
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