私の二人の神様へ
ひび割れたグラス
『え?え?本当に良いですか?』
私は恐る恐る尋ねたけど、電話の向こうの佳苗さんはいつも通り子供っぽく元気に言ったものだ。
『私がお願いしているんです。私たちが実家に帰っている間、仁をよろしくお願いします』
佳苗さんがあかりちゃんと実家に帰るが、仁くんは仕事でダメだから留守番らしい。
そんな電話の中で佳苗さんは私に、良ければ仁に手料理を振る舞ってもらえないですか?と言うのだから驚くのは当然だ。
本当に寛大というか、無頓着というか。
私が仁くんに恋心を抱いていたことなんて、まったく忘れてしまっているかのよう。
仁くんにも佳苗さんにも、私は仁くんの恋愛対象として思われていないのだ。
それに対して、ほんのちょっとだけやっぱり。
そう、本当に少しだけど悲しいし悔しい。
でもだからこそ彼と過ごせる時間がこうして与えられるのなら、私はプライドも何も捨てて喜んでしまう。
やはり私は仁くんが大好きなのだ。
『仁くんに私の家で手料理を振る舞うのが私の上京してやりたいことの一つだったんです!!まさか、叶うなんて。……あっ!!でも、仁くんが忙しくて夕食を一緒に取っている時間なんて……』
『大丈夫ですよ。仁も小春さんとの時間を過ごしたいと思っているんです。私には遠慮して言わないけど、本当は小春さんの声を聴きたい、顔を見たいって思っています。』
仁くんが選んだ相手が佳苗さんで良かったと思う。
私には榊田君がいて、仁くんの隣には佳苗さん。
これが私の幸いなのだ。
佳苗さんとの電話を終えたあと、さっそく仁くんに電話をかけてみるが繋がらず。
残念だが仕方がない。
いや、むしろ会える楽しみが増える。
そう、今なら私は何でもプラスに考えることができる。
私はそれ以後。
大学の帰り道も、寝る時も、その次の日も考えるのは、仁くんを招くための準備のこと。
小さいアパートだけど、花を飾ったり、テーブルクロスを買ったりすればそれなりに可愛らしくなるし、最高のおもてなしをするぞと活きこんでいた。
仁くんと会える日が決まってからは料理の試作にも取りかかった。
彼の笑顔と褒めて欲しくて。
つまりは、浮かれていたのだ。
そして、それが私と榊田君の決定的な亀裂のきっかけになった。
私の無神経さが。