私の二人の神様へ
だけど、水はかけられることはなく彼は無言で立ち去った。
私は、放心状態で榊田君の後ろ姿を目で追うだけ。
だけど、何とか我に返り、震える手でバッグと荷物を掴み取り、彼を追いかけた。
デートだからと、可愛い靴を履いて来たのが間違いだった。
重たい荷物もあって、榊田君になかなか追いつかない。
人にぶつかり、睨まれながらも、彼の背中だけを追った。
ここで、彼を掴まえないと、離れて行きそうで。
その恐怖なのか、必要以上に息が上がって、でも、追いかけて。
人通りが途切れたところでようやく彼に追いついた。
彼の腕を掴んでもすぐに言葉を発することができなかった。
ぜぇ、ぜぇと荒い息を吐きながらも榊田君の腕を痛いほど強く掴んだ。
彼が引き離そうとするのに、抗うように。
「ご、ごめん、ごめんなさい。ほ、んとうに、ごめんなさい。お願い。話を、聞いて。お願い、だから」
「何も話すことはない。あれがお前の本心だ」
榊田君は私をやっぱり冷ややかに見つめたまま、侮蔑を隠さない声色で言った。
「お前の言動は毎回軽蔑に値するが、今回はその中でも最低最悪だな。離せ」
そう言って、強く掴んでいた手を簡単に解かれしまった。
彼が力を入れれば、私の力ではどうしようもない。
その拍子に、持っていた紙袋が地面へと落ちた。
榊田君の私を見る目が怖くて、これ以上軽蔑されるのが怖くて、追いかけることができなかった。
皮肉なことに、この日、唯一、榊田君の家に置こうと思っていた、グラスだけが割れていて、私と榊田君を表しているかのようだった。