私の二人の神様へ




「どうして、こんなに卵焼きが少ないんだ」



 卵焼きが一切れになったところで榊田君が私に話しかけてきた。


 私は一瞬、驚きのあまり息を呑んだ。



「おい。ぼけっとせずに人の話を聞け。俺が食べる分量、忘れたのかよ?」



 はっと我に返り、慌てて立ち上がった。



「あ、ううん。ごめん。今、作るから、ちょっと待ってて!すぐに作るから!」



 良かった。


 榊田君が、卵焼きを食べてくれた。


 私の顔を見て、話しかけてくれた。


 仲直りまでは時間がかかるかもしれないけど、私の謝罪の言葉は聞いてくれるかもしれない。


 とにかく、今は榊田君が褒めてくれる卵焼きを作らなければ。


 きっとたくさん作っても全部食べてくれるからと、私は卵を三つ割った。














「小春ちゃん。そろそろ帰ろうか。送っていくよ」



 時計が九時を指した頃、広君が笑顔で言った。



「うん。でも、平気だよ?家近いし、広君反対方向じゃない?」



 私が強いのを知っていても、仁くんや榊田君と同じで、広君もいつもアパートまで送り届けてくれる。



「いいや。デートは小春ちゃんを無事に送り届けることまでだよ」



 そんな風に冗談っぽく微笑むから、お言葉に甘えて、と思ったら、



「俺が送る」



 榊田君が会話に入ってきた。



「え?送ってくれるの?良いの?」



「ああ」



 榊田君は首筋を掻きながら、面倒くさそうに言った。


 これは、私に呆れているのではなく、照れているほう。



< 154 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop