私の二人の神様へ
「どうして、こんなに卵焼きが少ないんだ」
卵焼きが一切れになったところで榊田君が私に話しかけてきた。
私は一瞬、驚きのあまり息を呑んだ。
「おい。ぼけっとせずに人の話を聞け。俺が食べる分量、忘れたのかよ?」
はっと我に返り、慌てて立ち上がった。
「あ、ううん。ごめん。今、作るから、ちょっと待ってて!すぐに作るから!」
良かった。
榊田君が、卵焼きを食べてくれた。
私の顔を見て、話しかけてくれた。
仲直りまでは時間がかかるかもしれないけど、私の謝罪の言葉は聞いてくれるかもしれない。
とにかく、今は榊田君が褒めてくれる卵焼きを作らなければ。
きっとたくさん作っても全部食べてくれるからと、私は卵を三つ割った。
「小春ちゃん。そろそろ帰ろうか。送っていくよ」
時計が九時を指した頃、広君が笑顔で言った。
「うん。でも、平気だよ?家近いし、広君反対方向じゃない?」
私が強いのを知っていても、仁くんや榊田君と同じで、広君もいつもアパートまで送り届けてくれる。
「いいや。デートは小春ちゃんを無事に送り届けることまでだよ」
そんな風に冗談っぽく微笑むから、お言葉に甘えて、と思ったら、
「俺が送る」
榊田君が会話に入ってきた。
「え?送ってくれるの?良いの?」
「ああ」
榊田君は首筋を掻きながら、面倒くさそうに言った。
これは、私に呆れているのではなく、照れているほう。