私の二人の神様へ
「自惚れんな。俺は俺のプライドのために承諾したんだ。とっとと家に入れ」
榊田君は虫を追い払うがごとく私を手で追い払った。
私はもう素直に甘えようと、軽くため息を吐いて榊田君を見た。
「ありがとう。おやすみなさい」
「ああ」
別れのあいさつを済ませ、アパートの門をくぐった。
私の部屋は三階。
もちろん、エレベーターなんてものはないから良い運動になる。
軽やかに三階にたどり着き、バックから鍵を取り出すところで、門を見る。
私の部屋はちょうど真ん中にあって門がまっすぐ見下ろせる。
そこには榊田君がいて。
それはいつも通りで。
鍵を開けてから部屋に入る前にもう一度手を振って別れるのが付き合う前から当たり前で。
今になって突然気づいた。
こんなに距離が離れているのに、彼の視線は私に向いているのがわかる。
大事にされている。
そんな思いが自然と胸に込み上げてきた。
こうして部屋に入るまで待っていてくれなくたって、大事にされていることはわかる。
仁くんと同じくらい、私のことを大事にしてくれている。
でも、ずっとこうした榊田君の優しさに私は気づいていなかった。
当たり前としか、捉えてなくて。
どうしようもなく、胸が熱くなって痛んだ。
私は鍵をバックの中にしまい込みながら、上ってきた階段を駆け下りた。
あの暗闇に輝く神秘的な黒の瞳を近くで覗き込みたい。
彼の温もりを感じたい。
階段を駆け下りる音と自分の心臓の音がだんだんと早くなる。
そのまま、榊田君に駆け寄って、その手を握った。
力強く、ぎゅっと。