私の二人の神様へ
「きっと、相討ちだから通り魔事件にはならなそうだね」
ドアを開けると暗闇の中、外灯が輝いていて。
仁くんが優しく頭を撫でるから。
私は、やっぱり、故郷での別れを思い出して、少し切なくなった。
きっと、私と仁くんが一緒に過ごした時間よりも、多くの時間を彼は佳苗さんと過ごす。
今は私と交わしている言葉のほうが多くても、やがて佳苗さんと交わす言葉のほうが多くなる。
そして、私と彼が積み重ねてきた思い出よりもたくさんの思い出ができるのだろう。
彼と一緒にいるのが、ずっと日常だったけど、それが非日常になっていくみたい。
時が流れて、私たちを取り巻くものが変わった。
ずっと、ずっと彼が隣にいると信じて疑わなかった幼き私が、愚かに、でも、愛しく思えた。
幼き頃への哀愁か、目から涙がこぼれ落ちた。
もう恋心はないけど、仁くんは私にとってかけがえのない存在で。
だから、こんなにも胸を突く。
俯いているから仁くんの顔は見えないけど、きっと時が流れても変わらない、故郷での別離と同じ、淡く優しい微笑みがあるのだろう。
だって、この優しい手の温もりが同じなのだから。
そうやって、頭を撫でられながら、こうも思う。
過ごす時間も交わす言葉も思い出の数もいつかは抜かされてしまう。
だけど、私たちが積み重ねてきた平凡でどこにでもある思い出たちは。
私にとっても仁くんにとっても貴重でかけがえのないもので、それこそお互いがこれから過ごす中で積み重ねていく思い出に負けないものだ。
だから、寂しさを感じる必要はない。
それがわかりながらも、こうやって頭を撫でられると涙が止まらない。
こうやって撫でられるのが好きだった。
いつも、いつも、泣きながら心地良さを感じていた。
泣き虫なのはこうして頭を撫でてくれるのを願ってなのだろうか。
彼の前では本当に泣き虫な私。
こんなわけのわからないセンチメンタルで泣いているのに、彼は茶化したりしない。