私の二人の神様へ
「おい。今日の夕食何が良い?」
「……うん」
あれが最後のチャンスだった。
何のチャンス?
逃げる……?
いや、いや。
逃げるなんて女が廃る、というか、私は断じて嫌なわけでは。
「答えになってない。何ならコーンたっぷりのサラダなんてどうだ?」
「……うん」
榊田君は優しいから、ああいう風に言った。
恩着せがましくない、負担に思わせない優しさ。
そっけない態度の裏にはいつも隠されている。
「お前、コーンが嫌いだろ?良いのか?食ってやらないからな」
「……うん」
昨日の言葉に嘘はない。
でも、今になって怖じ気づいている。
「おい。お前、人の話を聞け!」
榊田君がいきなり止まるから彼の背中に頭が激突する。
彼の顔には思いっきり深く眉間のしわができていた。
その榊田君の表情とあるものが私の中で重なった。
「あっ……ブルちゃん」
「あ?」
「あのね。昔、ご近所の藤堂さんちにブルドッ……ひぃ~たぁ~いぃ~」
「無視した挙げ句、ブルドック呼ばわりか。そうか。そんなにコーンたっぷりが良いか」
低く唸る姿もブルちゃんにそっくりだ。
ブルちゃんはなかなか愛嬌があったけど榊田君はひたすら怖い。
「ブルちゃんに似てるなんて一言も言ってない!というか、コーンたっぷりって?」
「お前がコーンたっぷりのサラダが食いたいって言ったんだろ?」
「言うわけないでしょ!?私が嫌いなの知っててそんなこと言うなんてヒドい!」
「…………」
「鬼!悪魔!」
「……なら、人の話をしっかり聞け。何が食いたい?」
「トンカツが食べたい!あと、エビフライ!」
「わかった。スーパー寄ってくぞ」
そう言いながら、私のお泊まりカバンを奪い、手を握られた。
「うん!!」
あ~やっぱり好きだな、そんな感情がふっと湧いて自然と和んだ。