私の二人の神様へ
夕食の仕度をしていると、卵焼き、と纏わりついてくる榊田君。
ちょこまかちょこまかと私の行く手に、卵を割ったボールを差し出してくる。
「自分で作れば?私は作らないわ」
私はつーん、とそっぽを向く。
「お前の卵焼きが食いたいんだ。この週一度の卵焼きを俺がどれほど楽しみにしているのか知っていて、その態度か?」
突っぱねて取り合わなかったが榊田君は諦めずに纏わりつく。
卵焼き、卵焼き、と抑揚のない声で。
そして、私の手伝いを率先してやり、点数を稼ごうとしている姿を見ると、どうしても軟化してしまう。
榊田俊とは、天に二物も三物も与えられたような人物だ。
恵まれた容姿に、圧倒的な存在感、洗練された才能。
周囲の評価だとか目を気にしないで、自分の思うままに生き、その飄々とした姿が様になっている。
魔性のような色っぽさと言い、否応なしに注目を浴びてしまう。
だけど、最近になって榊田君は完璧な存在ではないなと思う。
拗ねてみたり、今みたいに私に駄々を捏ねたりする。
私には甘えているように思え、それがとても可愛い。
口に出せば、彼は機嫌を損ねて甘えてくれなくなりそうだから言わないけど。
私にだけだ。
拗ねてみたりするのは。
夏が大層苦手な彼は、私がいないときゅうりとトマトで一日を過ごす。
私がいれば、自分の当番の時はしっかり作るし、しっかり食べる。
だからなるべく榊田君の家に顔を出すようにしている。
こんな風に世話を焼いていると、榊田君が普通の男の子にしか見えない。
榊田君は何でもできてしまうから人に頼ることはない。
だから、世話を焼けるのは私だけだと思うと優越感があるし、何でもしてあげたいと思ってしまう。