私の二人の神様へ
榊田君が紗希さんの家に行ったと言う噂は、結構広まっていた。
なんせ、堂々とゼミ員の前で約束したのだから。
私は知らなかったが、浮気だ、破局だ、とか一部で色々言われていたらしい。
そして、榊田君は悪者扱い、私は哀れな彼女、ということになっていたとか。
でも、紗希さんの態度を見て、二人の間には何もなかったことは外野から見ても明らかだった。
なんせ、紗希さんと大学で偶然すれ違った時に、私は平手打ちを喰らいそうになった。
突然のことだったが、持ち前の反射神経でその腕を掴んで事なきを得た。
だけど、目だけで人が殺せるっていうぐらい紗希さんは怖かった。
私が叩かれる理由がさっぱりだったが、次の日にはその真相がわかった。
榊田君は紗希さんが約束を守ったから、あの日のことは一切口外しなかった。
だが、友達に紗希さんの家に行った理由を尋ねられ、
「水野が絶賛するバウムクーヘンがあるって言うから行った」
そう答えたらしい。
それが、私に食べさせるためにバウムクーヘンを貰いに行った、と都合良く解釈され、榊田君の悪評は一転、何と彼女思いなんだ、と大絶賛の声に変わった。
紗希さんが、バウムクーヘン目当てで来た榊田君だけでなく、私をも目の敵にする理由はこれだ。
榊田君の評判はまさにうなぎ上り。
彼氏にしたい人ナンバーワン投票があったら間違いなく彼の圧勝だと周囲が騒ぐくらい。
これも彼の計算のうちなのではないかと思うほど、出来過ぎた話だ。
彼はバウムクーヘンも卵焼きも評判も、一挙に手に入れた。
人生甘くない。
そんな言葉は彼の辞書にはないほど、思い通りの人生なのではないだろうか?