私の二人の神様へ
「……私は、仁くんの幸せが一番じゃない。自分が大事。だから、佳苗さんと一緒にいる仁くんの幸せを願うことはできなかった」
彼の幸せが一番だと思っていた。
彼が幸せなら、私も幸せだと。
でも、私の隣にいることが前提にある中で、彼の幸せが一番だったのだ。
彼のように広く慈愛に満ちた感情を持つことはできない。
「それで良いんだ。小春が自分の幸せを一番に考えてくれるのが俺の幸せだから。周りなんか気にするな。小春の幸せを阻むものがあれば俺が必ず排除する」
どうしてだろう?
嬉しいのだろうか?
悲しいのだろうか?
何故、彼といると泣きたくなるのだろうか?
「仁くん。でもね、今は仁くんの幸せを願ってる」
「わかってる。ちゃんと、わかってるよ。小春のことは」
私の頭を優しく撫ぜた。
大好きな温かく、懐かしい、淡い光に照らされた手。
優しく、残酷な。
故郷で、幼き自分にさよならを告げた時、彼の幸せを祈れるようになりたいと。
それくらい大人になりたいと思った。
でも、まだ私は幼い。
それでも、私が彼の幸せを願えるのは。
「榊田君のことが好きなのかはわからない。けどね、仁くんの幸せを考えられるようになったのは彼のおかげ」
榊田君が私を好きだと言ってくれて、支えてくれたから。
そうでなければ、流されるように、移ろうように、淡々と笑って過ごしていたかもしれない。
榊田君が私の拾う神であることは揺るぎない。
「彼がいなかったら、私は仁くんを憎んだままだった。私にとって榊田君は大事な人。これだけ
は揺るがない」
彼の目をまっすぐ見た。
「そうか」
彼は微笑んだ。
微笑んでいるのに、何だか悲しそうに見えた。
きっと、私も同じ表情をしているのだろう。
どうして、幸せなのに泣きたくなるのだろう。
彼の顔が、ぼんやりと歪んだ。
きっと、外灯が眩しかったから。
そう自分に言い聞かせた。