私の二人の神様へ
「お兄ちゃんがコケにされても別に構わないけどさ。情けないもんだね」
榊田君が動く気配がして、私は慌てて止めに入った。
まさか殴ったりしないと思うが、家から力ずくで追い出すつもりなのがわかったから、反射的に動いた。
「あ、あの。私、無神経なところがあって、榊田君に不愉快な思いさせることが度々あって。だから、決して榊田君を侮ってるわけでも、ましてコケにしているわけでもなくて。えっと、つまり、ごめんなさい」
榊田君の腕から手を離して、頭を下げる。
「いつもごめんなさい。知らないうちにまた不愉快な思いをさせてたんだよね?だけど私馬鹿でわからないから、はっきり言ってくれると助かります」
また榊田君を傷つけていたかと思うと申し訳なさや自分の馬鹿さ加減で身体が自然と小さくなってしまう。
そんな私の背中が優しく叩かれ、ちらりと視線だけ榊田君に向ける。
「俺は何にも不愉快な思いをしてない。今まで通りの水野で構わない。美玖の言うことなんて気にするな」
そして、榊田君は美玖ちゃんに目を向けた。
「自分のものさしで測って、勝手なことほざくな。てめぇのほうがよっぽど不愉快だ」
冷ややかさはないけど怒りを抑えた口調の榊田君に、美玖ちゃんは長い髪を額から掻き上げた。
「はいはい。もう、何にも言いませんよ。お兄ちゃんの部屋にイルカが一匹でいるなんて、可哀想。ウサギも買ったほうが良いよ、小春ちゃん!」
いつもの美玖ちゃんに戻って、ほっと肩の力が抜けた。