私の二人の神様へ
それ以降、美玖ちゃんは、いつもの可愛らしい美玖ちゃんのままだったけど、榊田君が電話で席を外した時に、真剣な顔して私の顔を覗き込んだ。
私はドキドキして、思わず、後ずさりする。
「お兄ちゃんとの距離、小春ちゃんは測り間違えてるよ?二人はあくまで異性の友達でしょ?幼馴染とは違う」
同じことしたらダメだよ、と美玖ちゃんは眉間に指を当てた。
わかってるつもりだった。
だから、榊田君に抱きついたり、必要以上に触れたりしていない。
仁くんと同じようには接したりしていない。
だけど、それでもダメなようだ。
正直、 私は人生の中でモテたためしがない。
これは私が生徒会長、成績トップ、空手が強いだとか、そういう要素で恋愛対象に見られていなかったからだと思い込むことにしている。
決して、私が口喧しい説教ババァだったからではないと思いたい。
モップとほうきを振り回し、男子を追い掛け回していたからではないと思いたい。
とにかく、自分に好意を持ってくれる人にどう接して良いかわからないのだ。
加えて、私は榊田君に心を許してるから、どうも気が緩みがちで知らずに無神経なことをしている節がある。
「榊田君って、何にも考えずに気の向くままで、言いたいこと全部言ってるように思うけど、やっぱり遠慮してる部分があるのかな?」
「気のない顔は生まれつき。いくらお兄ちゃんでも何でも自分の気の向くままに言ってるわけじゃないよ。何か考えてることもあるでしょ?お兄ちゃんのことなんてわからないけどさ」
私が声を出そうとしたら、榊田君が勢い良く部屋に入って来て、チラシをかざした。
「水野!今日は特売だ。特に卵が安い!夕食は卵焼きだ。とにかく安いから買い込むぞ、準備しろ!」
気のない声が、どこか弾んでいる。
このわかりにくい違いを嗅ぎ取れるくらいに、私は榊田君といる。
「……小春ちゃん。ごめん、訂正する。お兄ちゃんは気の向くまま食べ物のことしか頭にないみたい」
「……榊田君らしくて脱力するね」
急かされながらもこの脱力感のせいでトロトロ用意してると、苛立った声がして。
ああ、やっぱり榊田君は榊田君だな、と思った。