私の二人の神様へ
これが最後
「……すごく可愛い」
そんな貧相な言葉しか出ないほど神秘的だった。
この子の存在に体中から歓喜の振るえが沸き起こり、目尻に涙がたまる。
それを榊田君が呆れたように見ていたから、慌てて涙を拭った。
「小春。名前を呼んでやってくれ」
彼は私の頭に手を置き、淡く優しい笑みを浮かべた。
小さくふにふにした手にそっと指先で触れた。
壊れそうで、神秘的な存在に触れることへ畏怖を感じているのかも知れない。
「……あかりちゃん」
震える声でそっと呟く。
すると、すこし身じろぎをした。
自分の名前がわかっているのだろうか?
「やっぱり、名付け親が呼んだから喜んでるな」
仁くんも、あかりちゃんの手に触れた。
私と仁くんの手も触れ合う。
その触れ合った部分だけ、妙に熱い。
「名前、気に入ってくれた?」
少し下を向いて、彼は微笑んだ。
「こんな可愛い名前をつけてくれて気に入らないわけないだろう?小春が名付け親で良かった。ありがとう」
ぽんぽんと私の頭を軽く叩く。
その昔では当たり前だった、気軽な動作も、今では貴重なものになった。
でも、このリズムも温かさもずっと微かに覚えていて昔と変わっていないことがわかる。
感覚は消えないのだ。
ずっとこびりついている。
記憶は薄れても、感覚だけは残る。
「こ、小春さ~ん!チョコが焦げてます!助けてぇ~!」
キッチンから佳苗さんの悲鳴。
チョコが焦げてる?
大変だ。
一年に一度の大イベントのバレンタイン用のチョコレート。
私は返事をしながらスリッパを響かせてキッチンに向かった。