私の二人の神様へ
その拍子に涙がこぼれそうになって、ぐっと堪えた。
このまま、涙を一滴でもこぼせば次々に溢れてしまう。
仁くんが私の顔を覗き込もうとした。
彼にはバレてしまう。
気づかれてしまう。
だから、仁くんに抱きついた。
仁くんに見られないように。
「小春?」
これが最後だ。
抱きつけるのもこれが最後。
思えば、七年ぶりに再会してから一度も抱きついたことなんてなかった。
昔はいつでも抱きついていたのに。
これが最初で最後。
そう思うと、やっぱり涙がこぼれそうになって。
「仁くん、大好き!」
昔もこうして抱きつきながら、ありったけの思いをこめて叫んでいた。
でも、これが子供扱いの原因だと思って、封印していた。
一人の女性として見て欲しくて。
一人の女性として抱きつきたかったし、抱きしめられたかった。
彼はふんわりと私を抱きしめた。
「俺も小春が好きだぞ」
潤んだ目にオレンジ色の光が入り込んできた。
こうして見る最後の夕焼けをしっかり目に焼付けよう。
忘れないように。
しっかりと。
この綺麗で悲しい夕焼けを。
「……おい。佳苗。これは浮気だぞ」
「う~ん。ここまで堂々とされると困るね。どうしよう?」
佳苗さんは首を傾げ、眉を下げた。
私は仁くんの背中に回していた腕を放し、彼から離れた。
「佳苗さん。これが最後だから許してください。榊田君!帰ろう」
出来る限り、精一杯元気良く、笑顔で言った。