私の二人の神様へ
どうしてだろう
笑顔でドアを閉め、エレベーターに乗り込んだ。
そのまま降りて、上を向いたままエントランスの自動ドアをくぐった。
「おい。駅はこっちだぞ」
駅とは反対に向かう私に榊田君が声をかけた。
「先に帰ってて」
榊田君の顔は見ずに、歩き出す。
一歩一歩歩くごとに、涙が生産されていく。
びゅーびゅーと北風がマフラーを揺らし、涙を揺らす。
表面張力では耐えられなくなった涙が頬をつたい流れた。
口を手で強く押さえ、嗚咽を噛み殺そうとしたけど、ひっく、ひっく、と耳障りな泣き声がこぼれた。
「ほれ。バスタオル」
言葉と同時に、私の顔にバスタオルが押し付けられた。
榊田君は帰らなかったようだ。
私の言うことを聞く人じゃないから別に驚きもしない。
「な、何でバスタオルなのよぉ」
普通、ハンカチではないか。
「お前の泣き方じゃ、ハンカチじゃどうにもならないのは予想がついたから」
いつも財布と携帯しか持ち歩かない榊田君は私のバックか、コートのポケットで済ますのに、今日に限って大学用のバックを持ってきたのはバスタオルが入っていたからか。
不思議には思っていたけど、今、納得がいった。
そんな風に優しくされて、さらに涙が増産体制に入った。
バスタオルに顔を押し付けて、わんわん泣いた。
我慢することをせず。
彼は帰れと言ってもついてくる。
それなら、我慢する必要もない。
あかりちゃんの柔らかい手の温もりと仁くんの優しい手の温もりを思い出す。
手の温もりを思い出すだけで、涙は溢れ、バスタオルに押し付けた目にオレンジの光が浮かび上がる。
それがまた涙を溢れさせる。