私の二人の神様へ
「そうだよ!仁くんと全然会えなくて寂しかったんだから。五月以来なんだよ?」
「おい。飯は……」
「悪かった。やっぱり、声を聞くだけなのと会うのではまったく違うな。小春の笑顔がない日々には嫌気がさしたぞ」
そう言って、私の肩をそっと抱き寄せ、優しく微笑んでくれる。
昔と変わらず。
「もう。上手いこと言って。誤魔化されないんだからね!」
彼の服を掴み、頬を膨らませて怒っているポーズをとる。
これも昔と変わらず。
「……おい。お前ら、俺は腹が減ったんだ。早く飯の用意をしろ」
榊田君はとうとう我慢できなくなり、先ほどより声のトーンを落とした。
明らかに苛立っている。
彼は食い意地が張っているから。
「お前はいつも王様気取りだが、お前の身分はここでは一番下だ」
私に見せてくれる優しげな表情とは違い、不愉快そうに仁くんは顔を歪めた。
こういう仁くんも格好良いな、とその横顔をうっとり眺める。
「俺は招待されたんだ。招待客を丁重に扱うのは常識だ。お前に常識を説いたところで無駄か」
険悪な雰囲気が漂い、私と佳苗さんは慌てて立ち上がる。
「別に慌てて作ることはない。こいつに勝手に作らせろ。なかなかの腕前だそうだな。それなら食べてやっても良いぞ」
「俺は水野の料理が食えるから来たんだ。お前に腕前を披露するためじゃない」
仁くんが何か言う前に佳苗さんが遮る。
「そうそう!私も小春さんに教えてもらわないと!少しは、上達したから、俊君にも食べて欲しいし。二人は仲良く待ってて!仲良くね!」
「佳苗さんの言う通り、仲良くね!そうしないと、二人のご飯はなくなるわ」
「……水野。お前、最近、おばさんと一緒で飯で人を脅すのが得意になったな」
「お母さんと一緒にしないで。交換条件よ。交換条件。難しくないでしょ?」
私がそう言うや否や二人はすぐさま、難関だ、と首を横に振った。
息がぴったり合っている。
「ほら、仲良しだ!」
私と佳苗さんは、にっこり微笑みキッチンに向かった。
背後から、二人のため息が聞こえたが無視だ。