浅葱色の忍

烝の笑顔

ここに来て烝華が笑ったのは
恐らく初めてだろう


涙を拭った後の目を細め


まるで俺に好意があるような言葉に
胸が熱くなる



俺のものにしていいのだろうか




妻なのだから、いいに決まっているが

烝華は、仕事として俺に身を任せようとか
思っているのではないか?


そんな気がしてならなかった















5年前に、一目惚れして以来
次にあったら、家臣にすると梅沢には
ずっと言い続けていた


まさか、女子だと思っていなかった



家慶様の側近から怒鳴られていた
話の内容で、雇い主を探していることは
わかった

忍だということに、また驚いたが


「なかなかの可愛らしさですが
あの性格なら、仕事と言わない限り
側室には、難しいでしょうね
どうします?家慶様にお願いしますか?」


梅沢の進言に首を縦に振った

やっと会えたのだ



そばに置きたいと思ったのは
男だからじゃない


人として、気に入ったからだ






まだ、5日間だが
烝華の真面目さも、美しい容姿も
男勝りな口調も

全て愛おしく想う









考えているうちに



「そんなに… 嫌か?」



「いや、すまん
考えていた 俺でよいのかと」


「慶喜がいいって言ってんだろ!」




仕事だからじゃないよな?


烝華





恐る恐る


烝華の顔に近づいた


そっと閉じられる目



5日間夜を共にして、寝顔すら見ていない




本当に良いのだろうか





この目から、また涙が流れることが
たまらなく怖かった





パチッ




開かれた目が、俺をとらえた




「待たせんなよ!」


「ちょっと顔見てただけだ」


「見んな!お前も目を閉じろ!!」


「なんでだ」


「恥ずかしいんだよ!!!馬鹿!!!」



どこが恥ずかしがってるんだ!!


馬鹿とは、なんだ!!!




「だいたい!こんなとこですることじゃない
布団に行くぞ!!」


「なんで威張るんだよ!命令すんな!」


「行くぞ!」


「チッ」






結局 長い口論の末



疲れて眠ってしまった




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