イケメン兄の甘い毒にやられてます
母親の点滴が終わり、体調も少しよくなったようで、みずき君を連れて、診察室を後にした。

「…他にお手伝いする事は?」
「…なんとかなりそうだから、病棟に戻って」

「…そうですか。それでは、失礼します」

看護師たちに会釈して出ていこうとすると、静に呼び止められた。

「…夕陽ちゃん、」
「…どうしたんですか?」
「…お昼、一緒に食堂でランチしてくれる?」

「…良いですけど」
「…はぁ、良かった。分院では、俺は余所者だからさ。一人飯は寂しいから」

「…大変ですね、お医者様も」
「…ホンとにね、それじゃあ、お昼に食堂で」

「…はい」

…お昼を一緒に食べるのが、圭吾だったら良かったのに。

なんて、思った夕陽は、どれだけ圭吾が好きなのかと思い、苦笑いした。

病棟に戻ると、遅出出勤した優が、仕事をしていた。

「…おはよう、優くん」
「…お疲れ様…ベッドメイキングしに行くんだけど、手伝ってくれる?」

「…うん、優くん」
「…何?」

「…ううん、何でもない」
「…なんだよそれ」

ちょっと笑った優は、ベッドメイキングセットの入ったカートを押し、歩き始めた。

夕陽も、その一歩後ろを歩き着いていく。



…夕陽は、仕事をしながら、優をチラ見する。

なんだか、いつもと違う優に、違和感を覚える。

…結局、昼休憩に入るまで、その違和感は消えないまま、夕陽は食堂に向かった。

「…夕陽ちゃん、こっちこっち」
「…静先生」

二人でランチを食べ始めると、周りの視線が気になった。

大学病院から来た静は、本当に好奇の目で、見られているよう。顔もイケメンだし、女子看護師からの熱い視線もチラホラ。

夕陽はなんだか可笑しくなってクスクスと笑う。

「…何が可笑しいの?夕陽ちゃん」
「…静先生、モテるお医者様は大変ですね」

「…嬉しくないよ。俺は別に神でもなんでもないんだから、普通に接してもらえた方がいい」

「…圭吾さんも、こんな感じなんですかね?」
「…アイツは別格だろ?アイツのモテ度は半端ないよ。圭吾と結婚すれば玉の輿だしね」

静の言葉に、夕陽の顔があからさまに暗くなる。

「…そんな顔しないのと心配ないよ、圭吾はずっと夕陽ちゃん一筋だから」

「…本当に?」

「…今日だって、俺がこっちに来たのは、圭吾のご指名だし」
「…え?」

「…夕陽ちゃんに、悪い虫が付かないように、監視してろってさ」

静の言葉に、夕陽は目を見開いたが直ぐにふふっと嬉しそうに笑った。
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