イケメン兄の甘い毒にやられてます
…今話題の映画だけに、人がごった返していた。

運良く、2席は確保できたものの、一人があぶれる形になる。

「…私はいいから、二人とも座って下さい。二人のすぐ後ろで見てますから」

夕陽は立ち見でいいと言い張るが、そんなの許す二人ではない。

「…夕陽は座りなさい。高いヒール履いてるんだから、三時間近く立ちっぱなしは、俺が許さないよ。俺が立ってれば問題ないよ」

そう言ったのは圭吾。

良いところを見せようとする圭吾が気に入らないのか、優も立つと言い張る。

そんなとき、二人の横に、小さな子供を抱っこしたお母さんが目に入って、圭吾がその人に席を譲った。

…結局、椅子には、夕陽と、親子が座ることに。

「…神藤先生、そんなに夕陽に良いところ見せたいですか?」

立ち見になった圭吾と優。

優は不機嫌な顔で圭吾に言う。

「…そりゃあ、好きな子には良いところ見せたいよね?」

そう言って爽やかな笑顔の圭吾。

「…神藤先生は女性全般、そんな感じですよね?」
「…まぁ、否定はしないかな」

「…」
「…俺の相手は、患者さんばかりだからね?優しくするのは当たり前だろ?それに、外では、夕陽以外に優しくしようなんて特には思わないよ。今だって、君が意地を張るから、たまたま居合わせた大変そうなお母さんに、席を譲った方が丸く収まるだろ?」

圭吾の言葉に、ぐうの音もでない優。

「…俺にとって、大事なのは夕陽だけだから」

前の席に座って、CM中なのを良いことに、隣の小さな子供と楽しそうに戯れる夕陽を、優しい眼差しで見つめながら、圭吾は優に、自分の気持ちを真っ直ぐに打ち明けた。

「…俺にとっても、夕陽は大事な奴です」

優も、胸のうちを圭吾にぶつけた。

やっぱり優は、夕陽の事が。

「…君には絶対夕陽はあげないよ」

「…そんなのわかりませんよ?全ては、夕陽次第ですから」

…圭吾も、優も、それ以上言葉を発することなく、始まった映画を見つめていた。
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