black×cherry ☆番外編追加しました
「わかりました。じゃあ、咲良ちゃん、もう大丈夫だからね」

「はい・・・」

岡本さんは、そう言って私に微笑みかけた後、立ち上がって黒崎さんから悠翔さんの身柄を引き継ぐ。

悠翔さんは、もう抵抗する気はないようで、おとなしく二人の指示に従っていた。

けれど。

「咲良・・・」

歩き出す直前に、私の名前を呟いた。

振り返った、すがるような大きな目。

私はまた、再び恐怖に縛られた。

「・・・っ、行くぞっ」

岡本さんは、厳しい声でそう言うと、悠翔さんを引きずるように歩き出す。

その、向かった先の道路には、黒い車と、いつか見た記憶のある刑事さんたちが立っていた。


(・・・悠翔さん・・・)


力なく歩く後ろ姿に、なぜか胸が痛んでしまった。

もう、彼を好きな気持ちはこれっぽっちも残っていない。

突然再び現れて、私に触れた感触は、恐怖と嫌悪でしかなかった。

だけどーーーーー。

過去に私が好きだった人。

かっこよくて、大好きで、本当に私は大好きで、この人のためならば、なんでもできると思っていた人。

その人が、今は私にすがるような目を向けた。

やせ細り、だらしのない身なりのままに、あの頃と同じように、私だけは特別なのだと、私を好きだと言ったこと。

「・・・うっ・・・」

なんの涙かわからなかった。

悲しいのか、辛いのか、感情の表現がどういうものかはわからない。

けれど、先ほどよりも溢れた涙が止まらずに、頬の上を何度も何度も落ちていく。
< 155 / 318 >

この作品をシェア

pagetop