black×cherry ☆番外編追加しました
自宅に着くと、昭一おじさまは玄関の中まで私のことを送ってくれた。

ママとは電話でだいたいの話をしていたようで、二言三言、会話を交わすだけだった。

「・・・じゃあ、咲良またな。コンサートがんばれよ。楽しみにしているからな」

「はい。どうもありがとうございました・・・」

おじさまは、仕事があるのでコンサートの後はすぐに帰ってしまうそう。

お礼の挨拶ができないのは残念だけど、忙しい中来てくれるので仕方ない。

「ほんとなら、咲良の婚約者とやらにも会いたかったけどな。また今度、ゆっくり挨拶させてくれ」

「・・・はい・・・」

「じゃあ、桃子も明日な。咲良はかなり疲れてる。すぐに寝かせてやってくれ」

おじさまは、玄関先にいたママの肩をポン、とたたくと、右手を上げて出て行った。

おじさまの優しさに感謝しながら、途中口にした「婚約者」の言葉に私の心がざわついた。

「・・・はあ」

完全にドアが閉まると、ママがため息をつく音がした。

そして、小さな声で呟いた。

「よかった・・・。おばあさまに見つからなくて」

心底、安心したような声だった。

以前、黒崎さんに送ってもらった記憶と重なる。

ママはあの日も、「よかった」って、「見つからなくてよかった」って、そう言ってほっとしていた。


(・・・なんか、悲しいな・・・)


もしかしたら、悲しいんじゃなくて、怒りの気持ちかもしれない。
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