black×cherry ☆番外編追加しました
食事を終えて自室に戻ると、ちょうど机の上のスマホが鳴った。

誰だろう、と画面を見ると、相手は佐和子おばさまだった。

「・・・はい」

「咲良、ごめんねー、こんな時間に」

いつも通りの明るい声。

気持ちはかなり沈んでいたけど、佐和子おばさまの明るい声に、私はとてもほっとした。

「いえ・・・嬉しいです。どうしたんですか?」

「あー・・・うん、明日のコンサートなんだけどね、1時間くらいしか聞けなそうなの」

聞けば、昔からの常連さんに、「どうしても」と、エステの施術を頼まれたそう。

気難しいタイプの方で、佐和子おばさま以外には、肌さえも触れさせないお客様のようだった。

「ごめんね、ほんとに・・・。時間の調整お願いしたんだけど。どうしてもこの時間って言われてしまって」

「そうですか・・・。わかりました。残念だけど・・・聞けなかった曲は、家でまた弾くので聞いてください」

「あ、嬉しいー。うん、今度聞かせて」

それから二人で、何気ない会話を交わした。

悠翔さんの事件のことは、心配させてしまうから、あえて私は触れなかった。

「・・・でね、その新しい化粧品、本当に濃ーいシミも消すわけよ。どんどん改良してくから。咲良にも、あと10年したらおすすめするわ」

「ふふっ、はい。お願いします」

おばさまと、話をするのは楽しかった。

さっきまでの沈んだ気持ちが、自然と上を向いていく。

「・・・あ、そうだ!」

一度会話が落ち着くと、佐和子おばさまは思い出したように呟いた。

そして、怒った様子で話し出す。

「そうそう、聞いてよ~!黒崎さん、あれから連絡一度もないのよ」

「・・・!」


(そ、そうだ・・・)


今の今まで、私はすっかり忘れていた。

佐和子おばさまは、黒崎さんのことが好きだったんだ。

それなのに、私、好きになって告白までして・・・。
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