black×cherry ☆番外編追加しました
お昼を過ぎても、病院の外来はまだまだ患者さんでいっぱいだった。

馬場さんは、迷惑にならないよう車で待っているとのことだったので、私は一人、外科外来を訪れて受付の年配の女性に声をかけた。

「すみません、早川先生にお届けものがあるのですが・・・」

忙しそうに書類を並べていた受付女性は、私の声に目線を上げた。

そして私と目が合うと、「あっ!」と大きな声を出し、席を立ってニコッと優しい笑顔になった。

「院長のお嬢様でしょう。咲良さん。早川先生から聞いてます」

「えっ、あ、はい・・・」

「どんなに忙しくても声かけろって言われてますから。ちょっと、待っててくださいね〜」

そう言うと、受付の女性はいそいそと部屋の奥へと入って行く。

そして再び戻ってくると、「こちらです」と患者さんの合間をぬって中へと案内してくれた。

「ああ、咲良ちゃん、ありがとう」

診察室の中に入ると、早川先生の満面の笑みが向けられた。

いつもと変わらず、仕事中でも爽やかな顔。

一瞬、キスされそうになった記憶に頬が熱くなったけど、何度か小さく首を振り、気持ちを今に切り替えた。

事務員さんや看護師さんは、私に興味があるのだろうか、そこかしこから、私の顔をちらちら見ていく。

やっぱり、婚約者か・・・せめて、彼女だと思われているかもしれない。


(・・・やっぱり、早く帰ろう)


そう思って、私は早速風呂敷包みをほどいてお弁当をひとつ取り出した。

「これ、母から頼まれてきたお弁当です。遅くなってすみません」

「いや。まだ診察終わらないし。終わってから食べるから。早いぐらいだよ。ありがとう」

「はい・・・」

優しく笑いかけられて、胸がズキンと痛んでしまう。

ここに来るのは私は嫌々だったけど、先生は待ってくれていたんだと、今更ながらに思ったからだ。


(・・・でも)


「じゃあ・・・私は、これで」

「ん?もう帰っちゃうの?」
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