black×cherry ☆番外編追加しました
「おまえはもっと周り見ろ。おまえには、いい婚約者がいるんだろうが」

たしなめるような、厳しい口調。

鋭い目で睨まれて、涙がこぼれそうになってくる。

「誤解されたらオレも困るし。お嬢様の気まぐれで、オレのこと好きとか言うな」

「!」


(気まぐれって・・・)


もしかしたら、「好き」っていう気持ちさえ、真剣には伝わっていないのだろうか。

気まぐれなんかじゃ、決してないのに。

「私は、本当に」

「・・・マリッジブルーとかじゃないのか。一時の気の迷いだろ。

オレは、あの婚約者とは正反対のタイプだし、物珍しさで興味を持ったのかもしれない。でも、冷静になればすぐ冷める。おまえは、あの医者と結婚するのが正解だ」

「!」

ストレートな言葉じゃないけど、「諦めろ」と言われてしまったようだった。

完全に、これは失恋。

もう、少しの望みもないくらい。

「・・・じゃあな」

そう言うと、黒崎さんはくるりと私に背を向けて、エレベーター脇の階段を早い速度で下って行った。

耳に響く足音が、次第に遠くなっていく。


(『迷惑』ーーーー・・・)


ーーーもう、メールはできない。

そしてきっと、話もできない。


(本当に・・・振られてしまった・・・)


ぐるぐると、言われた言葉が頭の中を駆け巡る。

ぽっかりと空いた胸の中。

私はただ、その場にずっと立ち尽くすことしかできなかった。












< 221 / 318 >

この作品をシェア

pagetop