black×cherry ☆番外編追加しました
「今日は本当にありがとうございました」

「いえ、そんな、こちらこそ。ふつつかな娘ですが、よろしくお願いいたします」

食事会を終え、和食店を出た私たちは、ホテルのロビーで帰り際の挨拶をしていた。

婚約はしたものの、結婚まではあと二年。

その間、「またお食事会をしましょうね」と、親同士で盛り上がっている。


(結局、先生とはほとんど話せていないままだな・・・)


そもそも、婚約をしたという事実だけが鮮明で、あとの記憶はほとんどなかった。

どんなことを話していたっけ。

全てがスクリーンの中で起こったような、そんな感覚も持っていた。

ぼんやりと両親たちを眺めていると、早川先生が横から声をかけてきた。

「疲れたね。親がいるとゆっくり話もできないし。今度こそ、二人だけで食事に行ってくれるかな」

「あ・・・」


(そうだ、結局、私は連絡していないまま・・・)


「すみません・・・。私、一度も連絡せずにいて・・・」

「ああ、もういいよ。これから何度も行けるだろうし、こうやって婚約できたしね。まあ・・・正直、今日来てくれるかなって心配はしてたけど」

「えっ」

「・・・いや。ああ、そうだ、今度食事に行ったとき、婚約指輪も買いに行こうか。だいたいは調べておくけど。咲良ちゃんの好きなお店でいいからね」

「はい・・・」

早川先生は、やっぱり、とても優しい人だと思った。

私にも、パパやママにも。

先生の・・・自分の両親への感謝や気遣いもできる人。

「レストランも予約しておくよ。何が食べたい?」

「・・・そうですね・・・好き嫌いはないので、なんでも大丈夫です」

「はは、そっか。じゃあ、とびきり美味しいところに連れて行くから」


(とびきり美味しいところ・・・)


ふと、黒崎さんと行ったお店を思い出す。
 
狭いけど、とても美味しいーーーー。
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