black×cherry ☆番外編追加しました
「!」

恐怖で声は出ないまま。

震える思いで、ただ、怖くて目を閉じた。

その、瞬間。

耳を塞ぐような銃声の音が響き渡った。


バーン!!


(・・・!?)


大きな音に、弾かれるように目を開く。

目の前では、男性が呻き声をあげて床にうずくまっていた。


(な、に・・・?)


見ると、少し離れた床の上に、ナイフが転がり落ちていた。

周囲には、血が流れたりはしていない。

状況がわからずに、私はただただ、うずくまる男性を見つめて茫然とその場に立ちすくむ。


(さっきの銃声・・・もしかして、ナイフだけ撃ち落とされたの・・・?)


辺りをはっと見渡した。

すると私は一点で、時が止まったように目を見張る。

「・・・!!」

数メートル離れた位置に、拳銃を持った男性がいた。

その人が、こちらに一歩一歩近づいてくる。

いつもより怖い顔をしたその人はーーーーースーツ姿の黒崎さんだ。


(なんで・・・)


ここに、黒崎さんが。

私は黒崎さんを見つめるけれど、黒崎さんは、周りには目もくれず、うずくまる男の元に一直線に歩み寄る。

そして間近の位置で立ち止まり、男のことを見下ろした。

「銃刀法違反、現行犯だ」

拳銃を向け、低い声で呟いた。

男は「くそっ」と、悔しそうな顔をして、床の上をダン!と叩いた。

その時。

「あーっ、風船!」

どこからか子どもの声がした。

3歳くらいの男の子が、手を離してしまったのだろう、天井に舞う風船を追うようにフロント脇から飛び出してきた。

「あっくん・・・っ!!」

母親らしき女性の声。

はっとなった黒崎さんが、一瞬そちらに目を向けた、その瞬間。

「っ、邪魔すんな!!」

うずくまる男は、その一瞬の隙を見て、もう一本、隠し持っていたナイフを胸元から取り出した。

そしてそのナイフの先を、乱暴に大きく振りかざし、黒崎さんの左腕をスーツの上から切りつけた。


(・・・!!!)


「きゃー!」という悲鳴がそこかしこから轟いた。

紺色のスーツの色が、赤く、濃く染まっていく。

黒崎さんは顔を歪ませ、左腕を右手で押さえた。

「羽鳥ーっ!」

男は、今度はナイフを持ってパパに向かって突進をした。
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