black×cherry ☆番外編追加しました
腰を屈めて、バケツの中をじっと覗き込んでいる。

中には魚が一匹いるだけ。

めずらしくもないであろうバケツの中を、覗く姿が不思議だった。

「・・・なにか」

近づいて、後ろから声をかけると、女は想像以上に驚いていた。

身体をビクリと動かして、はずみでバケツを蹴っていた。

「すみません!めずらしくて、覗き込んでしまっていて・・・」

なにがめずらしいのか。女は頭を下げた後、正面に来たオレを見た。


(・・・あれ?この女・・・)


真正面で見下ろしたのは、記憶に残る顔だった。

色が白く、人形のように品よく整った顔立ちは、あの時よりも少しふっくらしたかもしれない。

ひとつにまとめた長い黒髪。

汗ばんだ額にかかる前髪は、眉の下で揺れていた。


(こいつ、本部長の・・・)


思い出すと、女もオレのことを思い出したようだった。

口を大きく開けたまま、アーモンド型の目を何度もパチパチ瞬いた。

「あ、あの・・・!ごめんなさい・・・!!」

何歩か後退りをして、くるりとオレに背中を向けた。

そして突然走り出す。

けれど何メートルか走ったところで、豪快な感じで転びやがった。


(・・・マジか・・・)


大人(かどうかは微妙だが)の女で、こんな風に転んだやつは初めて見た。

周りにいた他の釣り人も、何事かと振り向いたけど、あまりの光景に皆驚いて固まっていた。
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