black×cherry ☆番外編追加しました
(どんくせえな・・・。なんなんだ・・・)


人の顔を見た瞬間、走り出したりするからだ、と心の中で毒を吐く。

けれどその行動に、心当たりがないわけじゃない。

こいつは以前、オレが取り調べをした容疑者だ。

黙ってばっかでイラついたから、怒鳴って泣かせたことは覚えてる。

そのトラウマか。こいつは多分、オレのことが怖いのだ。

「・・・大丈夫か」

放っておくわけにもいかず、一応声をかけてみる。

すると女は、蛇に睨まれたカエルのように、怯え切った顔をした。


(カエルって顔ではねえか。ネコとかリスとか・・・うさぎとか)


それでオレはオオカミか。

女は顔を青くしている。

早く逃げ出したいんだろう。

立ち上がろうともがいているが、足首を痛めたらしく、起き上がれないままでいる。

「捻ったのか」

「はい・・・多分」

しゃがんで足元を見ると、サンダルの細いひもが足首にくいこんでいた。

細い足。

白い肌は、それだけで周囲が赤くなっていた。

「こんな靴履いてるからだろ。街中じゃあるまいし」

なんの用事か知らないが、釣り場に履いてくる靴じゃない。

言わずにいられず呟くと、女はさらに怯えるような態度をとった。

「すみません・・・。気をつけます」

言いながら、再び立とうとしていたが、泣きそうな顔になっている。

きっと足が痛むのだろう。

女にこういう顔をされるのは、心底面倒くさかった。

「・・・どっちの足だ」

「捻ったのは、右足です・・・」
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