冬の恋、夏の愛
羽島さんは、相変わらずうつむき加減だった。結局、黙々と歩いて桜木町まで戻ってきた。なじみのコーヒーショップに入ると、アイスカフェラテを注文して、カウンター席に座った。

カウンター席しか空いていなかったことにホッとしながら、羽島さんからの次の言葉を待った。

「関さん」

名前を呼ばれると、なぜか胸の鼓動が加速した。「なに?」と、短く返事をして、平静を装う。

「迷惑やないならまた……会ってくれますか?」

「どうして?」

思わずそう聞いてしまった。どうして無愛想で、喜怒哀楽が極端に下手なオレと、会いたいと思うのか。羽島さんくらいの子なら、いくらでも誘いはありそうなのに。

オレじゃなくても、いいはず。そう思って、聞いた。

「どうして……って……」

羽島さんは、目を丸くしたと同時に頬を赤く染めた。そして、うーん、と小さくつぶやくと、次の言葉を探すようにして、視線をあちらこちらに向けた。

しばらくして、その視線がピタリ。オレの視線と重なった。

「えっ、と」

まっすぐにオレをみつめる、目。恥ずかしさのあまり、ついそらしそうになるけれど、羽島さんの視線がそうはさせなかった。

「好きやから、です」

覚悟を決めた唇は、そう言葉を紡いだ。

「は?」

聞き間違いじゃなければ、『好き』と聞こえたが……? 驚きのあまり、眉間にしわを寄せると、冷たくひと言、そう言い放った。

「あ! いえっ! なんでもないです!」

羽島さんは顔色を変えると、オーバーに手を振りながら、立ち上がった。

「え?」

動揺する羽島さんに、つられてオレも立ち上がった。

「あ、あ……。帰ります! ごめんなさい!」

なぜか半泣きになりながら、財布から千円札を出して、テーブルに置いた。

「お金とか、いいから」

「いえっ! これで……さようなら」

……どうして、逃げたんだ?

走って帰っていく羽島さんの背中を、オレはぼんやりと、みつめることしかできなかった。

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