冬の恋、夏の愛
「こんばんは」

いい具合にアルコールが回ってきた頃、多治見さんがやってきた。職場まで一時間ほどかけて通勤しているから、定時で終わっても地元に帰ってくるのが遅くなる。

「お疲れ様。羽島さんは?」

「仕事でトラブっているみたいで、行けないかも……って」

涼介からおしぼりを受け取りながら、残念そうな表情を浮かべて、多治見さんが言った。

仕事でトラブル……なんて。きっと、オレに会うのが気まずいからだろう。それに、職場の近くでひとり暮らしをしている羽島さんが、わざわざ一時間かけて飲みにくるメリットは、ない。

「そうか。残念だな」

涼介が意味ありげにオレの背中をドンと叩いた。羽島さんが来る、来ないとか、そんな問題じゃなくて。オレたちふたりは、残念な結果に終わったんだよ。

そんなこと、幸せなカップルであるふたりには、言えない。

「なんか、相当トラブっているみたいで。関さん、なぐさめてあげて下さいよ」

会うのが気まずいんじゃなくて、本当にトラブルなんだ? でもオレじゃあ、役不足だよ。きっと同期とか、職場の先輩とかが羽島さんを放っておかないだろう。そう思うとなんだか嫉妬心みたいなものが、沸々と沸いてきた。

「穂花、大丈夫だから! 寿彦がなんとかするから、なぁ?」

心の中をふたりに見透かされないように、キュッと唇を締めた。涼介の言葉に、イエスもノーもない、曖昧な笑みを返した。


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