冬の恋、夏の愛
「え? なんで……」

そうつぶやいた羽島さんの唇は、微かに震えていた。これ以上、どうすればいいのかわからないオレは、さらにグイッとひと押しすると、「お疲れ様」と言った。

「ありがとう」

コンビニの袋を受け取った羽島さんは、静かに涙を流した。良かれと思ってしたことが、裏目に出てしまった。気まずくなって、視線を足元に向けた。

「なんで来てくれたんですか?」

絞り出すような、小さな声で羽島さんが言った。

「ただ、『お疲れ様』って言いたくて」

足元に向けた視線を、羽島さんに戻すと、泣きながら笑っていた。

「メールも電話もあるのに?」

涙で声がいつもと違う。そんな羽島さんも、かわいく思えた。

「うん。つまりは……」

会いたかった。ただ、それだけ。

「なんでもない。ただの気まぐれ」

でも、そんなこと、やっぱり言えない。言えるのは、ただひとつ。羽島さんがオレを好きなんじゃなくて、オレが羽島さんを好きなんだってこと。

この恋は、まだ始まったばかりだ。



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