冬の恋、夏の愛
第二章 恋の階段を上るとき

今年最後の夜も、やっぱりふたりはこの街にいた。

桜木町は、ふたりが初めて出逢った街。何度もデートを重ねた街。あえてバスには乗らず、時間をかけてゆっくりと、駅から赤レンガ倉庫まで歩くことにした。

「寒いねぇ」

関西訛りの莉乃ちゃんが小さくつぶやくと、寒さで冷えた手に息を吹きかけた。

「手袋、持ってきたらよかったわ」

残念ながら、自分も手袋を持ち合わせてはいない。

「どこかで、買う?」

この時間なら、まだ店は開いている。赤レンガ倉庫にも雑貨を扱う店はあるだろうが、そこまで寒さに耐えられないのなら、途中の店で買えばいいと思った。

「……そうやなくって、さ」

莉乃ちゃんの視線がオレを刺した。安易に「買えばいい」と言うオレを、浪費家だと思って、気にいらなかったのか?

「ポケットの中の、手」

「え?」

指摘され、ポケットから手を出してかざしてみせた。

「もうポカポカに温まった?」

……あ。もしかして、この手が手袋代わりだということか?

「……ん、まぁ」

かざした手を、莉乃ちゃんの手に近づけてみる。でも、自分からは握れない。

「温まったか、確認してみる」

ポツリとつぶやいた莉乃ちゃんは、冷えた手でオレの手を握った。

「おっきくて、あったかいね」

冷えた小さな手で、オレの手をしっかりと握った。恥ずかしくて、でもうれしくて、なにも言えなくなった。



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