冬の恋、夏の愛

「私って、魅力ないんかな……」

今にも消え入りそうな、小さな小さな声で、莉乃ちゃんがつぶやいた。

「……え?」

どうして急にそんなことを言い出したのか。理解できないオレは、聞き返した。

「……だって」

大きな目が、潤んでいる。またオレは、気づかぬうちに莉乃ちゃんを傷つけてしまったようだ。

「ごめん」

「なんで謝るの? 私に魅力がないのがあかんのに……」

「ごめん。言っている意味がわからない」

どこから『莉乃ちゃんに魅力がない』という話になったのか? だんだんと、なにについて会話をしているのかもわからなくなってきた。

「寿彦さん」

莉乃ちゃんがオレの名前を呼んで、じっとみつめる。恥ずかしさのあまり、目をそらしてしまいそうになりながらもみつめ返した。

「ふたりっきりやのに……抱きしめてもくれへんから」

「えっ!」

思わず声をあげてしまった。莉乃ちゃんは、オレなんかにはもったいないくらい、かわいい子だ。嫌われたくなくて、慎重になっていただけなのに。それが裏目に出ていたなんて。

ゆっくりと近づくと、優しく抱き寄せた。莉乃ちゃんからのひと言に、やっと自分から近づくことができた。

女の子特有の、柔らかい感触。ただ触れているだけで、この上ない幸せを感じた。

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