冬の恋、夏の愛

「新横浜まで、JRに乗れば行けますよね?」

桜木町駅に向かう道すがら、横浜に慣れていないであろう羽島さんが、不安げな表情を浮かべながらオレに質問をした。

「新横浜まで、送るよ」

「いいんですか?」

さすがのオレでも、不慣れな人間を置いて自分だけ帰るようなまねはしない。

「ああ」と小さくつぶやく、オレ。明るい笑顔を見せながら「ありがとうございます」と言う、羽島さん。新横浜までの二十分弱、なにを話せばいいのやら。

「野球、好きなんですか?」

人混みにのまれそうになりながら、羽島さんが後ろから話しかけてきた。プロ野球選手名鑑と財布、あとは無口なスマホしか入っていないリュックには、バットとボールのキーホルダーをつけていた。

「ええ、まぁ……」

「観るほうですか? やるほうですか?」

まさか、そんな質問をされるだなんて。エスカレーターに乗りながら、少しだけ顔を羽島さんに向けると「どっちも」と答えた。

「関さん、野球やるんですね! どこのポジションですか?」

ポジション聞いたって、野球知らなかったら意味ない……そう思いながら「ショート」と答えた。

「ショートですか? すごい」

『すごい』って。わかってんのかな?

「たしか海津さんは、サードでしたよね? 一緒の野球チームなんですか?」

……いろいろつっこんでくるなぁ。営業をしているだけあって、話上手っていうか。

「同じ職場の草野球チーム」

「そうなんですね。一度、観に行ってみたいです」

え? 草野球、観たいって? 好奇心旺盛な子だな。

「それならまず、プロ野球を観た方が」

そこまで言って、はっとした。なんだかまるで、オレから誘っているみたいだ。


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