冬の恋、夏の愛
第三章 突然

夏は、ナイターとビアガーデンが楽しみなオレ。いつもの夏は、そうだった。でも今年は、今年からは、ひと味違う。久しぶりに海に行ったり、花火大会を見に行ったり。隣には、莉乃ちゃんの笑顔。大好きな夏が、さらに好きになった。

暦の上では秋になった、とはいえ、まだまだ暑い昼休み。

「今年は楽しい夏だっただろ?」

区役所内の職員食堂で、向かいに座った涼介が、ニヤニヤしながら聞いてきた。

「もったいなくて、話せない」

この夏の思い出は、両手でも抱えきれないくらいたくさんできた。彼女ができただけで、こんなにも充実した夏が過ごせるなんて、思いもよらなかった。

「なんだよ、それ! いやらしいヤツ」

そう言いながらも涼介は、うれしそうに笑うから、オレまで頬が緩んだ。

「夏が終わったら、次はクリスマスだな」

「は?」

夏が終わったら、クリスマス? 涼介の言う意味がわからず、顔をしかめた。

「羽島さんの誕生日に、今年も焼き鳥屋に行くつもりか?」

そうか。モテる男は、夏が終わったらクリスマスの心配か。参考になります。

「まだ予約とか、早くない?」

「羽島さんが、どんなところで過ごしたいか聞いて、早めに押さえておくんだよ? わかった?」

箸でトンカツを掴みながら、涼介が熱弁をふるう。モテ男の涼介が言うと、やけに説得力があるから不思議だ。

「うん」

莉乃ちゃん、オレがそんなこと言い出したら、驚くだろうな。そう思いながら、味噌汁をすすった。

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