冬の恋、夏の愛
十月になり、さらにうれしいことがあった。クライマックスシリーズ進出を決めた、横浜ベイブルース。広島で行われる試合のチケットを、譲ってもらえることになったのだ。

「今度の土曜日、広島に行く」

仕事終わりにビールで乾杯をした後、うれしさのあまり、すぐ莉乃ちゃんに報告をした。

「そっかぁ、残念。日帰り出張?」

今度の土曜日は、デートの約束をしていた。莉乃ちゃんには申し訳ない……と思いながらも、彼女なら理解してくれると思って言った。

「クライマックスシリーズ」

「は?」

莉乃ちゃんは、クライマックスシリーズを知らないようだ。

「野球。行く予定の人がたまたま行けなくなって。チケット、譲ってもらった」

もう、ポーカーフェイスなんてできない。完全に頬が緩んでいた。

「寿彦さんは私より、野球が好きやもんね!」

莉乃ちゃんがオレにそう言葉を投げつけると、目の前のビールを一気飲みした。まさかの反応に、ポカンと口を開けた。

「もういい。別れる」

莉乃ちゃんは、テーブルに千円札を叩きつけるようにして置くと、店を飛び出した。

テーブルの上の千円札に視線を向けたまま、かなしばりにあったように動けなくなった。

別れる……って。振られた?




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