冬の恋、夏の愛
惨めな気分になりながら、ひとり、店を後にした。すぐに追いかければ良かった。すぐに『ごめん』と謝れば良かった。そうしたらこんな最悪の事態は避けられたのに……。

あ、今すぐ電話をしよう。まだそう遠くには行っていないだろう。慌てて電話をすると、話し中……。はぁ、とため息をつくと、駅へと向かった。

悪いのは、オレだ。自分のことしか考えていなかった。莉乃ちゃんなら、オレのことを理解してくれていると思っていたけれど。結局、傷つけて終わった。

振られたのは、仕方がない。許してもらえなくても、謝るべきだ……。

でも、もしかしたら莉乃ちゃん……。オレに嫌気がさしていて、いい機会だから別れようと思っていたのかもしれない。新しい男が、いたのかもしれない。

だって、あまりにも急すぎる。たった一度、デートのキャンセルをしただけで、『別れる』だなんて……。

うん? 『もういい。別れる』って言われたような? 『もういい』って。

涼介みたいに愛想のいいイケメンじゃない。気の利いた言葉どころか、話題も提供できない。特に何の魅力もない、オレ。

飽きられて、当然。今の今まで、オレなんかと付き合ってくれていたことが、もはや奇跡で……。

そんなことを考えているうちに、謝ることも、やり直すことも、無理だと思った。



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