冬の恋、夏の愛
心の隙間を埋めたくても、そう簡単に埋まるものではない。クライマックスシリーズを観に広島まで行ったけれど、楽しめたのは、野球を観ている時間だけ。

何かに集中している時はいいけれど、ふとした瞬間に、莉乃ちゃんが現れた。ランチタイムの職員食堂、電車の中、部屋やベッド……。いるはずのない莉乃ちゃんが、笑っていて。来るはずのない莉乃ちゃんが、そばにいて。

自分でも、どうかしていると思う。そのたびに電話をしようかと迷うけれど、ストーカーにはなりたくなくて、ため息をついて諦めた。

そんな日々が続き、十二月を過ぎてもまだ、思いを断ち切れずにいた。クリスマスディナーの予約も、キャンセルしていない。

このまま、あえてキャンセルしないでおこう。クリスマス当日に、ホテルに行こう。莉乃ちゃんは当然、来ない。それでやっと現実に目を向けられそうだ。

莉乃ちゃんへの思いを引きずるのは、今年で終わり。来年は、新しい恋をしよう。莉乃ちゃんより、もっと素敵な女性と恋に落ちよう。そうすれば、忘れられるはずだから……。

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