冬の恋、夏の愛
「プロ野球、いいですね! ぜひ連れていってください!」

野球、興味ないくせに。社交辞令もいいところ。

「機会があれば」

まぁ、もう会うこともないだろうな。たまたま出張で来ている、大阪の女の子なんだから。そう思いながら適当な返事をしたのに。そんなにうれしそうな顔をされると、なんだか騙しているような罪悪感。

会話が途切れると、羽島さんは車内の画面に目を向けた。ちょうどこの近辺の天気予報が映し出されていた。

「明日も寒そうですね」

それは、この近辺のことで。羽島さんが住む大阪は、もう少し暖かいのか、寒いのか。そんなことを思いながら、「ああ」とぶっきらぼうな返事をした。

新横浜に着くと、たくさんの人が降りた。「いっぱい降りますね」なんて言いながら、羽島さんが小さめなスーツケースをガラガラと引っ張っていた。

なんだか妙に重そうに見えて、言うよりも先にスーツケースを持った。もっと早くに気づいてあげれば良かったのに、いまさらな感じもしながら。

「関さん」

スーツケースを持つオレに、目を丸くしながら呼びかけた。

「いいから、早く」

エスカレーターに乗るように促すと「ありがとうございます」と微笑みを返した。

なんだよ。オレは、野球にしか興味ないんだから。

そんなかわいい仕草、みせるな。



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