冬の恋、夏の愛

そんな、細やかな幸せを手に入れたオレのもとに、一通のメールが届いた。

『お願いしたいことがあるから、会えない?』

メールの送り主は、仕事の関係で海外に住んでいた妹、聖子だった。夜、出歩くことになると、莉乃ちゃんに余計な心配をかけてしまう。そう思い、ランチタイムに会うことにした。

次の日、さっそく職場近くのそば屋で落ち合った。

「相変わらずだね。元気してた?」

明るく、快活で、姉御肌。聖子は、同じ日に、同じ腹から生まれたのが信じられないくらい、オレとは真逆の性格をしていた。

「まぁ、ね。ところで話って?」

この店の看板メニュー、天ぷらそばをふたつ注文してから、切り出した。

「あっちで知り合った彼と、結婚する」

「へぇー」

「『おめでとう』のひと言が先でしょ?」

フリーダムな聖子が、結婚。なんだか信じられなかった。

「『おめでとう』じゃなくて、『おめでた』なんじゃないかと思って、さ」

ボソリとつぶやくと、聖子の表情が強張った。どうやら図星のようだ。

「さすが。似てなくても双子」

「そんなことだと思ったよ」

なんだ。デキ婚か。呆れてものが言えなくなった。

「どうだっていいでしょ? 幸せならそれで」

「ん、まぁね」

オレなら絶対、莉乃ちゃんにそんなことはしないけれどな。そう思いながら、温かいお茶をすすった。

「それで、ね。結婚式のスピーチをお願いしたいの」

「へ?」

結婚式のスピーチ? オレが? 無理だよ、そんな大役。眉間にシワを寄せながら、間の抜けた返事をした。

「まぁ、今すぐじゃないよ? 六月」

「妊婦が、大丈夫なわけ?」

「だって、ジューンブライドに憧れているから」

注文していた天ぷらそばが運ばれてくると、聖子は長い髪をゴムで束ねて、勢いよくズルズルとすすった。なんともまぁ、男前な食べ方だな、と、感心する。

莉乃ちゃんなら、髪を耳にかけて、少しふうふうと冷ましながら、ゆっくり、チュルチュルと食べる。それがまた、かわいくていいんだけれど。

こんな男前な聖子を妊娠させた男は、どんなヤツなんだろうと気になった。

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