冬の恋、夏の愛
ふと目を覚ました、土曜日の朝。時計を見ると、まだ八時。もう少し、莉乃ちゃんの温もりを感じながら寝ていたいところだけれど、そっとベッドから起き上がった。

買い置きのクロワッサンと、甘いカフェオレで目を覚まし、スポーツ新聞に目を通す。九時前には身支度をして、ひとり家を出た。

向かった先は、朝九時から営業している、近所のバッティングセンター。朝一の方が空いているから、思う存分、バッティングを楽しめる。

顔見知りの店員と挨拶を交わすと、早速、バッターボックスを選ぶ。まずは、九十キロで軽く打ち、そこから球速をあげていく。

次は、百キロ。それが終わったら、百キロから百二十キロの球がランダムに出るバッターボックスに入ろう。そう思ったときだった。

バッティングセンターのドアを勢いよく開ける、莉乃ちゃんの姿が見えた。

「おはよう」

「……よかった」

どうしてここに? と思いながら、挨拶をした。息を切らし、ため息のような声をもらすと、その場にしゃがみ込んだ、莉乃ちゃん。

「なにが?」

眉をひそめて聞くと、なぜか「へへへ」と笑っている。

「気持ち悪い」

そうつぶやいて、莉乃ちゃんをグイッと引き上げ、ベンチに座らせた。缶コーヒーを買って渡すと、ありがとうを言って受け取った。

「変な夢でも、見た?」

「ん、うん。まぁ、そんなところ」

小さく「いただきます」を言ってひと口飲む、莉乃ちゃん。なんだかおかしいな、と思いながらもバッターボックスに入った。

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