冬の恋、夏の愛
ふたり揃って、バッティングセンターを後にする。

「手が寒い」

そう言い訳をして、さりげなく、小さな手を握った。恥ずかしくて、視線は高い方を向いたままだ。

「もうすぐバレンタインやね」

「寿彦さん、チョコもらえたり、するんかなぁ?」

なんだろう? 何かを探るような、途切れ途切れの、ぎこちない質問。

「莉乃ちゃん、くれるでしょ?」

質問を質問で返したのは、たとえたくさんのバレンタインチョコをもらえたとしても(もらえるわけもないけれど)、本命からもらえないと意味がないと思ったからだ。

「まぁ、ね。どんなチョコがいい? トリュフ……とか、好き、かな?」

「おいしければ、なんでも」

トリュフ、と言われても、よくわからない。要は、莉乃ちゃんがくれるチョコレートならば、なんでもかまわないってこと。

「あ、私、散らかしたまま来たから、掃除する!」

突然、思い出したように言うと、握っていた手を放し、慌てて駆け出した莉乃ちゃん。

なんだ? 今日は、やけにあわてんぼうだな、と思った。


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