冬の恋、夏の愛

「カフェオレ、飲む?」

「うん」

家に帰るとさっそく、テレビをつけた。野球中継を観ていると、莉乃ちゃんが気を利かせて、お茶の準備を始めた。

「寿彦さーん、これ、なに?」

「えー?」

「真っ赤な包装紙に包まれた箱。お菓子か、なんか?」

バレンタインに、聖子からもらったチョコレートのことだ。日持ちがするから、ほったらかしになっていた。

「ああ、食べるの、忘れていた」

「……」

莉乃ちゃんが何かつぶやいた気はしたけれど、ホームランの歓声とともに、かき消された。

「おー! 入った!」

莉乃ちゃんが声をかけてくれて、テーブルに座った。

「いただきまーす」

「これも、よかったら」

テーブルの中央に、さっき莉乃ちゃんが持ってきてくれた、真っ赤な包装紙に包まれた箱を引き寄せた。

「中身は? 開けてもいい?」

「どうぞ」

莉乃ちゃんがガサゴソと包みを開けた。

「手紙、入っている……よ」

「一緒に捨てておいて」

「え? でも……大切なメッセージやないの?」

手紙を『捨てろ』と言われた莉乃ちゃんは、躊躇した。

「読んだから、いい」

「でも、せっかくのメッセージ……」

「聖子からだから、いいよ」

莉乃ちゃんからの手紙ならともかく、妹からもらった手紙を、いちいち保管はしない。ありがたいとは思うけれど。

「聖子さんって、もしかして……」

「ああ。さっき会ったアイツ」

ケーキを平らげ、チョコレートに手を伸ばした。さりげなく、莉乃ちゃんの方に箱を近づけ、無言で『食べたら?』と勧めた。

「いただきます!」

莉乃ちゃんは素直にそれに応じる。やっぱり女の子は甘い物が好きだな。そう感じた。


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