冬の恋、夏の愛
「ただいま」

「おかえり。今、ごはんができたよ」

少し冷静になって家に帰ると、莉乃ちゃんが明るく出迎えてくれた。

ふたり、テーブルを囲んで食べ始めようとしたとき、タイミング悪く、莉乃ちゃんの携帯が鳴った。

「ごめん。先に食べて?」

莉乃ちゃんは営業だから、ふたりでいるときに電話がかかってくることはよくある。

「はい。羽島です」

仕事モードで電話に出る莉乃ちゃんを、チラリと盗み見る。

「あ、はい、どうも……お世話になります」

オレの視線に気がついたのか、莉乃ちゃんもオレを気にしてチラチラと視線を向けた。

「はい」

「はい」

「え!?」

会話の途中で、莉乃ちゃんの声が大きくなった。オレと目が合うと、莉乃ちゃんは慌てて逸らした。電話を切るとなぜだかため息をついた。

なんだよ……。まさか、加茂さんからの電話じゃないよね?

いつもは電話の相手なんて、気にもならないのに。加茂さんがおかしな電話をしてきたから、無性に気になる。

「誰から?」

「お得意先さん。急な予定変更で、びっくりしたわ」

「相手は、男?」

本当に得意先なのか、気になって仕方がない。

「だいたいお得意先さんは、男性が多いよ」

「仕事以外の男、じゃないよね?」

いつもなら、そんなに疑ったりしないのに。今日の今日だから、つい莉乃ちゃんを疑った。

「お得意先さんやで?」

莉乃ちゃんは笑顔で返事をしたけれど、その後は無言になった。あまりしつこいと、さすがの莉乃ちゃんも怒るだろうから、これ以上は何も聞けなかった。


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