冬の恋、夏の愛
「……聖子を、浮気相手と勘違いするなんて……」

最近、莉乃ちゃんの様子がおかしいと思ったら……そういうことだったのか。話をしてやっとわかった事実に苦笑いをすると、莉乃ちゃんは怒っているのか、口をへの字に曲げた。

「怒っている?」

「怒っているわ、めっちゃ!」

そう言う莉乃ちゃんが愛しくて、そっと抱き寄せた。

「怒っている顔、かわいい」

ずっとこうしていたいけれど、まだ話は終わっていない。すっと身体を離して、莉乃ちゃんをまっすぐにみつめた。

「じゃあ、次。加茂さんとの関係を聞かせて?」

「関係もなにも。仕事で打ち合わせをして……ほら! 『流星まつり』って、あったやん?」

「ああ、アレ……」

「それで後日、電話があって。仕事やと思って行ったら、ただ単に食事をしたかった……って言われて」

「サンマー麺」

そうつぶやくと、目を丸くした莉乃ちゃん。

「商店街の店で、サンマー麺を食べた」

「な、なんで知っているん?」

「加茂さんに、聞いたから」

まさか、加茂さんがオレにわざわざ電話をするなんて、思いもよらないだろう。オレだって、驚いたのだから。

「野球絡みで、お互いの連絡先を知っていて。加茂さん、わざわざ連絡をくれた。『莉乃ちゃんが、誘いにのった』って」

「ち、違う! 私は仕事やと思ったから」

「うん。それならいい」

誤解は解けた。もう一度、優しく抱きしめた。

「ごめん。傷つけて、ごめん」

オレの胸で泣きじゃくりながら、莉乃ちゃんは何度も謝った。

「うん」

オレのほうこそ、ごめん。伝えられない分、優しく包み込むようにして、抱きしめた。

莉乃ちゃんの温もり、柔らかな感触、におい……すべてが愛しくてたまらなかった。



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