冬の恋、夏の愛
赤レンガ倉庫内は、雑貨屋や飲食店が、数多く軒を連ねていた。羽島さんは、かわいらしいおみやげや、おいしそうな食べ物をみつけては足を止め、うれしそうに笑った。

羽島さんの無邪気な姿をみつめていると、つい頬が緩んだ。そんな自分に気づくたびに、唇をキュッと締め、無表情を作った。

「関さん、お腹空いたんやないですか?」

自分のお腹に手を当て、オレに聞く羽島さん。お腹が空いたのは、羽島さんの方だよね? と思いながら、「ああ、そうだね」と答えた。

「さっき、おいしそうなお店、あったんで。そこでもいいですか?」

いつの間にか、めぼしい店までみつけて。笑いそうになりながらも、無表情で「いいよ」と答えた。

羽島さんの後について行く。横浜っぽい、しゃれた店に連れて行かれるかと思いきや、選んだのは海鮮丼の店だった。

「めっちゃおいしそうですよ! わぁ、どないしよ? 迷う……」

初めて会った頃は気を遣っていたのか、全く感じなかった関西訛りが、オレの前ではポロリ。羽島さんが少しずつ、オレとの距離を縮めてくれているような気がする。でもオレは、すぐに心を開けるタイプではない。他人で唯一、心を開いているのは涼介くらいだ。

「関さん、どれにしますか?」

声をかけられて、ハッとする。適当に、コレと指をさした。

「あー! それもめっちゃ悩んでいるんですよ。おいしそうですよねー」

「じゃあ、オレのを少し、食べればいいじゃん?」

「えっ? いいんですか?」

羽島さんの言葉に、自分自身が驚いた。いつの間にか、羽島さんのペースに巻き込まれている自分が。

「ああ」

無愛想な返事をしても、羽島さんは笑顔をくれた。やっと決まった丼を注文する、羽島さんの後ろ姿に目をやると、気づかれないようにそっと笑った。


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