冬の恋、夏の愛
九回表、横浜ベイブルースの守護神がマウンドにあがると、スタジアムのボルテージは最高潮に達した。その期待に応えるように、三者凡退で試合を決めた。

「いい試合だったね」

花火が夜空を彩り、試合の余韻に浸る。夜空を見上げながらポツリとつぶやいた。

「寿彦さん! あの……」

「んー? あ! ヒーローインタビューが始まる」

……試合は、終わった。次は、オレの番だけれど、まだ、心の準備ができていない。

試合観戦を終え、たくさんの人がゾロゾロと出口に向かい始めた。

「莉乃ちゃん」

「はい!」

突然、名前を呼ばれたせいか、莉乃ちゃんの背筋がピンと伸びた。

「紙袋の中……」

「あ、うん! 見たよ! 指輪……」

ふたりの視線がぶつかる。今がチャンスだと思った。

「……誰にも、取られたくなくて」

「うん」

「……オレだけのものにしたくて」

「うん」

「だから、その指輪は、そういうことで」

「そういうこと……って?」

……伝わっているようで、伝わっていなかった……。

「だから、あの……うん……」

肝心なことを、伝えなくては。落ち着きなく、視線が泳ぎだす。

「莉乃ちゃん」

もう一度名前を呼ぶと、また視線がぶつかった。

「オレなんかで良ければ」

「うん」

「すみません、お客様! スタジアム内の清掃が始まりますので……」

「あ、すみませんでした」

いいところでスタッフに声をかけられ、スタジアムを後にした。


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