冬の恋、夏の愛
「桜木町の方まで、歩こう?」

ふたり手を繋ぐと、夏の夜風に吹かれながら歩き出した。莉乃ちゃんは、この辺りのことをよく知らない。キョロキョロしながら肩を並べて歩く道。

「馬車道って、アイスクリーム発祥の地、だって」

「へぇー、そうなんや」

なんとなく、お互いぎこちない会話になった。いいところで邪魔が入り(実際に邪魔だったのは、オレたちの方だが)、もう一度、同じムードまで持っていくのが、難しい……というか。

会話はぷっつりととぎれた。でも、莉乃ちゃんの小さな手の温もりを感じられたら、それでいい。むしろ会話はいらなかった。

「わぁー! すごい綺麗!」

キラキラと、夜景が輝く。シンボルマークの日本丸が見えてきた。ふたりが初めて会った、桜木町駅まであと少し。

メモリアルパークの芝生に腰を下ろし、横浜の眩しいくらいの夜景を眺めた。

「莉乃ちゃん」

紙袋から、小さな箱を取り出した。

「結婚、してください」

「はい!」

笑顔で返事をしてもらえたことに安堵して、小さな声で「よかった……」とつぶやいた。

「これで、心の扉は全開?」

心の扉は、さっきの返事で全開した。頬を緩ませると「ああ」と答えた。

「だって、オレの嫁だから、ね?」



(おしまい)



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